このエントリーでは、第14回国家資格キャリアコンサルタント学科試験の問17が、正答がないのではないかと考えられる点について、解説しています。

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第14回学科試験問17 問題文

問17 職業能力開発に関する次の記述のうち、不適切なものはどれか。

1.日本企業ではOJT(On the Job Training)が重視されるのに対し、欧米企業ではOff-JT(Off the Job Training)が重視される。
2.Off-JTを行う際には、訓練に直接必要となる「直接費用」のほかに、訓練に参加する労働者が訓練期間中に仕事から外れることなどから生じる「機会費用」を考慮しておく必要がある。
3.OJTを行う際には、訓練期間中に、教える側が仕事に専念できなくなること、教えられる側が訓練のため慣れない仕事に従事して生産性が低下することから生じる「機会費用」を考慮しておく必要がある。
4.人的資本理論では、企業内訓練で現在働いている企業でしか使えない企業特殊能力を高めた従業員は、給与面では転職しないほうが有利であると考えられている。

キャリアコンサルティング協議会 日本キャリア開発協会 第14回学科試験問17より引用

第14回学科試験問17 解説

本問は、公式解答では選択肢1が「不適切」として「正答」となっていますので、先に、他の選択肢を検討します。

選択肢2.3.で述べられている「機会費用」とは、Wikipediaによれば、下記のように説明されています。

機会費用は、希少性(使いたい量に対して使える量が少ないこと)によって迫られる選択に際して生じる。「そのことをすると、他のことがどれだけ犠牲になるか」計算するものを機会費用(機会コストとも言い)と呼ぶ。つまり、一つのことをすると、もう一つのことするチャンスがなくなることである。

(機会費用-Wikipedia

2.に関しては、当たり前と言えば当たり前のことですので、一応適切と判断することは可能です(キャッシュが潤沢な企業なら、考慮しないということはあり得ますが、考えすぎるのも良くありません)。

3.は、前半は特に問題はなく、適切です。しかし、後段は疑問符が付きます。

「教えられる側が『訓練のために慣れない仕事に従事して生産性が低下する』」という文言ですが、慣れない仕事に従事することによって生産性が下がるのではなく、慣れない仕事に従事するのですから、「元々生産性は低い」のが普通です。

例えば、営業をしていたAさんが、何らかの理由で製造に回る場合もあるでしょう。

しかし、これは生産性が低下するとかの問題ではなく「比較すべきではない」のです。

生産性とは下記の式で表されます。

生産性=生産量(額)÷労働投入量(労働者数や労働時間)

これを、営業と製造、しかもOJTを行っている「個人」を比較して、何か意味があるのでしょうか。

「君は営業の時は生産性が高かったが、製造に異動したら、慣れてないからやっぱり生産性が下がったなぁ。」

と言われて、ボーナスの評価が下がったら、普通は怒りますよね。

これは下がったのではなく、「やったことが無い・慣れていないのだから元々比較するべきではない」のです。

ただ、私も忖度という言葉を知っていますので、一応疑問がある、という程度にしておきます。

4.では「企業特殊的能力」という用語も出題されていますので、この用語の解説を見ておきます。

「企業特殊的能力」とは、企業内において、自社固有のやり方や仕組みを理解・実践し業務を円滑に遂行する能力である。企業内で蓄積される知識・ノウハウを身に付け、企業のもつ技術や戦略、市場、顧客、歴史的背景などを理解した上で、初めて付加価値を生む能力である。こうした企業特殊的能力は、他の企業では通常、あまり役に立たない。

中小企業庁2007年中小企業白書

この定義から選択肢4.を読めば、この問題文は一般論として特に問題はないように思います(出典は今のところ不明です)。

選択肢1が「適切」である根拠

さて、公式の回答は選択肢1が「不適切」となっていますが、これは下記資料に基づけば、「適切」と考えられます。

(出典:生産性向上につながる人材投資・人事改革 株式会社日本総合研究所山田 久 経済産業省

この資料は、「経済産業省の審議会・研究会」における資料として作成されたものです。

そして、本資料にハッキリと「欧米ではOFF-JTを人材育成手段として重要な位置づけを行い」と記載されており、これが経産省サイトで公開されている以上、逆にキャリアコンサルティング協議会及び日本キャリア開発協会は、「そうではない」と否定する資料(本資料が誤りであると否定しうる根拠を持った資料)を公開する必要があります。

同等の資料であれば、当然どちらとも言えないわけですから、「解無し」です。

当初は2.が当然と言えば当然であり、3.が敢えて従前の業務と比較すれば生産性が下がると言えなくもない(前提がおかしいとは思うのですが)。

その上で1.と比較すれば、元々欧米特にヨーロッパは、同一労働同一賃金のジョブ型雇用であり、OJTが多いことは考えにくいかなと思ったりもしましたが、欧米型のOJTの資料などもあったため、欧米でもOJTは普通に実施されていると判断しました。

なので、出典不明ながら、一応公式解答のとおり1になるのかと思っていた次第です。

しかし、今回問題集を刷新するにあたり、改めて資料等を調べたところ、本資料が見つけることができました。

そこで、改めて義疑問である旨、受験された皆様、受験される皆様に公開することと致しました

キャリアコンサルティング協議会、日本キャリア開発協会がキャリアコンサルタントの業界団体として、受験生の声に対して「聴く耳」を持っていれば、例え今からであっても本問は解無しとして訂正されるのではないでしょうか。

蛇足ですが、今回キャリ魂塾の学科試験対策講座を通学受講されたにもかかわらず、不合格とのご報告を頂いた方は、全員68点ですので、本問が全員正解となった場合、通学講座受講生は合格率100%となります。

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