このエントリーでは、キャリアコンサルタント試験に合格された方向けに、「自分のリソース」を知ること、使うことをご案内しています。

あなたのリソースは何ですか?

キャリアコンサルタントの場合、国家資格試験合格時点では(包括折衷アプローチも学ぶものの)ほぼ100%が傾聴主体、感情的アプローチを用いるロジャーズ派であり、一応いわゆる「ロジャリアン」と呼ばれる人々に分類されることになります。

そういう意味では、「聴く」ことが、多くのキャリアコンサルタントの「アプローチ」と言える「かも」しれません。

「聴く」はあなたの「本当の武器」なのか?

今、私は「かも」しれません、と書きました。

それは、違う「かも」しれないからです。

例えば、私の武器は「言葉」です。

私はエリクソニアンなので、15年以上、カウンセリングやセラピーの場で、言葉の使い方、その効果を考えながら、アプローチしてきました。

例えば、「抵抗の回避」や「リンキング」(接続)、前提などです。

そういった技法を使うことで、カウンセリングの効果を高めることができるからです。

技法と応答の意図の例

では、エリクソニアンの場合、どのような「技法」を使いながら、アプローチを試みているのか、少しご紹介してみたいと思います。

桜木さん桜木さん

カウンセリングなんて、効果があると思えないんです。


例えば、こんなクライエントの応答。

ロジャリアン(感情的アプローチ)の場合なら、

「カウンセリングに効果があると思えないんですね」

と伝え返すことで、クライエントが言葉を続けるのを待つことが多いのではないでしょうか。

(もちろん、「どうしてそのように思われるのでしょうか?」などを続けることも考えられますが、それはロジャリアンに限らず、どんなアプローチでもあり得るので、あえて「ロジャリアン」に限定することもないかなと思います。)

エリクソニアンは、「クライエントがひとりひとりユニークな存在である以上、支援者もひとりひとりユニークな存在として、クライエントに合わせて自由に支援する」ので、「この場面では、こうする」というような、決まった応答は存在しません。

技法としては、ミラクル・クエスチョン等も当然ありますし、許容的アプローチなどもありますが、毎回使うとは限らないわけですね。

後述しますが「カウンセリングを含め、クライエントへのあらゆるアプローチは、支援者のリソースを活用し、思うようにすればよい」のが、エリクソニアンだからです。

なので、私がエリクソニアンとして、一つの応答例を挙げるとすると…

キャリ魂太郎キャリ魂太郎

カウンセリングに効果があるとは思えないんですね。
確かに、仰られるように、効果が低いかもしれませんし、私のカウンセリングがあなたに効果があるかどうか、今の時点では分かりませんよね。

なので、初回の1時間は無料にしますので、30分くらい少し体験してみて、効果を実感して頂いてから、継続するかどうか決めて頂くと良いと思ったりするのですが、いかがでしょう?

こんな風に応答するかもしれません。

応答の意図と技法を考える

さて、第15回キャリコン論述試験ではないですが、この応答の意図は…?

そして「技法」はいくつ使われているでしょうか。

少し考えてみて下さいね。

「自らのリソースに基づいた技法」だから無意識に使えるようになる。

さて、お手元のテキストには掲載されていない技法もありますが、解説していきます。

①カウンセリングに効果があるとは思えないんですね。
伝え返し(同意)

②確かに、仰られるように、効果が低いかもしれません
効果があると思えないという断定→仮定への言い換え

③「し」
リンキング(接続)

④私のカウンセリングが、効果があるかどうか
効果があると思えないという断定→効果が「ある」を許容する言い換え

⑤今の時点では分かりませんよね。
効果があると思えない(断定)→「今の時点」と時間を限定する+「分からない」と言い換え+客観的事実

⑥なので
リンキング(接続)

⑦初回の1時間は無料にしますので
ドア・イン・ザ・フェイスの応用と、リスクのない提案

⑧30分くらい、
時間の分割(負担軽減)

⑨少し体験して
「少し」による抵抗回避

⑩「み」て、
補助動詞 みる(試しに~する)→「試しに」という意味を含むことで、抵抗を回避

⑪効果を実感して頂いてから
効果がない(断定)→「効果がある」への言い換え(&前提

⑫その後、継続するかどうか、決めても良いと思ったりするのですが、
「思う」で抵抗を回避
「たり」で抵抗を回避

⑬いかがでしょう?
問いかけによる自己決定権の尊重

⑭なので~いかがでしょう?
問いかけ内に、選択を複数入れることによる抵抗回避

だいたい、14の技法を使っています。

だいたい、と言うのは、人によって数え方が違うからです。

(客観的事実も、イエスセットでの言葉の使い方ですし、こういった文章構造そのものが、入れ子構造と言われたりもします。)

また「かもしれない→わからない→効果がある」と、言い換えを3つに分けて段階的に変えていっています。

このような「言い換え」の使い方も、もしかすると技法に分類されるかもしれません。

全体では、「カウンセリングは効果がない」というクライエントの考えを「支持」しながら、言い換えを複数(変容的に)入れることで、カウンセリングの体験を決めることが、イコール、「効果を実感して頂く」という変容への手がかり(前提)となる形で、応答を構成しています。

つまり、カウンセリングに入る前に、カウンセリングの効果が上がるように準備をしているのが、この応答の意図ということになります。

私は、こういった応答を無意識的に行いますが、それは「自らのリソース」、つまり「言葉を使う」スキルを活用しているから、無意識的に行えるだけです。

このように、支援者それぞれが「自らのリソース」を高め、活用すればよいと考えるのが、エリクソニアンです。

森俊夫先生は、演劇が武器

エリクソニアンの第一人者である、東京大学医学部助教授で、臨床心理士、ブリーフセラピストの故 森俊夫先生の場合、元役者というリソースを活かした演劇的なアプローチが武器でした。

森先生のセッション練習法は、道行く人を観察し、少し変わった動きをする人、面白い動きをする人がいると、後をついていく。

そして、その動きをまねることで、その人になりきっていくというもの。

だから、森先生はペーシングによるラポール構築力が段違いだったんだろうと思います。

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この一冊の副題が「ミルトン・エリクソンにはなれないけれど」とあるように、「ロジャーズ的アプローチ」即ち「ロジャーズのアプローチを再現しようとする」ロジャリアンと、「エリクソンを離れ、自らのリソースに基づいて支援する」エリクソニアンの立ち位置は、真逆なんですね。

あなたのリソースを考える

森先生は、「カウンセリングなんて、好きにすればいい」と言いました。

「大学や大学院に行かなきゃ『人の心を扱う』なんてしちゃダメ!」という意見をお持ちの方もいますから、そういった方からすれば、とんでもない暴論に映ると思います。

そうではなくて、支援者が自分に合わない療法、流派で、ギクシャクしながらやっても、効果なんて上がらない。

それが、森先生の考えです。

まずは、支援者が自分らしさを活かした(ユニークさに基づいた)支援をする。

そして、支援者の自分らしいアプローチを、クライエントがイヤだ、私には合わないと感じたら、いつでもクライエントが去れるようにしておく。

この2つで十分ということです。

だから、「聴く」のも大事ですが、あなたがあなたらしく支援できることも大事。

こういう考え方は、キャリアコンサルタント養成講習はもちろん、キャリアコンサルタント実技試験でも一切評価されないでしょう。

なので、実務的なお話、ということになります。

あなたが取り組んできたことや、得意なことはなんでしょうか。

営業なら、どんなふうに営業をすると、顧客の心が開いたのか。

音楽なら、どんなリズムだと、より多くの人と一体感を演出できたのか。

ペットを育てるなら、ペットが懐くようにするためには、どんな関わり方が効果があったのか。そしてそれは、ヒトと関係性を作るのに応用・活用できないか。

教師として長くお勤めされてきた方なら、ティーチングの効果があるクライエントはどんなクライエントか。

このように、自分のリソースを面談の場でどのように活用するか…

「経験」は、「助言」に使うのではなく、「アプローチ」そのものの構成に使う。

そう考えると、面談を今より更にクライエントに役立つような形で、提供できるかもしれません。