このエントリーでは、キャリアコンサルタント実務として、「カウンセラー」と「セラピスト」の違いについて解説をしています。

諸富祥彦先生による、「カウンセリングの本質」と森俊夫先生による「ブリーフセラピーの極意」

カウンセリングの本質は、アドバイスではなく、「クライエント自身による自己探索➡自己決定」という体験のプロセスです。「悩みの内容にどう答えるか」よりも、「カウンセリング中の、まさにその瞬間瞬間を、クライエントとカウンセラーがどのような姿勢で体験しているか」が極めて重要なのです。(中略)こころをこめてその瞬間、その瞬間に、「しっかりとその場にいる」ことが、カウンセリングにおいて何よりも大切なことだと言っていいでしょう。

それにより、クライアントさんは、「あぁ、このカウンセラーさんは、今、ここでの、この私に大切にしてくださっている」と感じることでしょう。

(引用:「はじめてのカウンセリング入門 カウンセリングとは何か」諸富祥彦 誠信書房 p57)

プロのカウンセリングにおいては、一発でよくすることより「一定以上悪くさせない」ことの方が大事です。

(引用:「はじめてのカウンセリング入門 カウンセリングとは何か」諸富祥彦 誠信書房 p60)

この諸富祥彦先生のカウンセラー像と真っ向から対立するのが、森俊夫先生の「ブリーフであること」です。

人はカウンセリングを受けるために生きているわけではない。もっと大事なこと、時間を費やすべきことはほかにいっぱいあるでしょう(中略)理想は「一回で何とかできそうなら、一回で何とかする」です。

(引用:ブリーフセラピーの極意 森俊夫 ほんの森出版 p18(太字は本文に基づく))

なぜこれほど真逆になる?カウンセラーとセラピストの違い

田村さん田村さん

どうして、諸富先生と森先生で、同じ対人援助職なのに、こんなに言っていることが違うんですか?


キャリ魂太郎キャリ魂太郎

おそらくそれは、「源流(創始者)」が違うからだと思います。

カウンセラーの源流は「心理学者」

いわゆる現代日本的カウンセラーの源流であり主流は、ご存じカール・ロジャーズを創始者とする、傾聴(来談者中心療法)です。

療法という言葉がついた経緯は不明ですが、ロジャーズ自身は「パーソン・センタード・『アプローチ』」と名称を改めています。

ロジャーズは、個人カウンセリングよりも、エンカウンターグループ、エンカウンターを通した世界平和の実現へと関心を移し、それに伴い、来談者中心療法からパーソンセンタードアプローチへと名称を変更する。

(出典:Wikipedia

つまり、「アプローチ」であって「療法」ではないと「ロジャーズ自身が」(Wikipediaを信じるのであれば)改称したことになります。

ロジャーズは、医師法違反を問われた際に「来談者中心療法は医療行為ではない」と主張していますので、そのことが影響しているのかもしれません。

心理学者を創始者に持つ「傾聴(非指示的カウンセリング)」は、「アプローチ」であって「療法(セラピー)」ではない。

だから諸富先生も「一定以上悪くさせない」ことが大事と主張されているのだと思います。

諸富先生は、筑波大学人間学類卒、1992年同大学院博士課程修了です。

人間学類という点でも、ロジャーズ的な印象を受けますね。

セラピストの源流は医師

これに対して、セラピストの源流、創始者ですが、こちらもご存じジークムント・フロイトです。

彼は、「精神科医」。つまり「治す(治療する)こと」が仕事です。

1886年(30歳)、ウィーンへ帰り、シャルコーから学んだ催眠によるヒステリーの治療法を一般開業医として実践に移した。

(出典:Wikipedia

最初から「治療」を目的として、そして「医師」として、心理療法(催眠※)を実践に移したとあります。
※フロイトは当初催眠からスタートし、精神分析に移行します。

そして、ブリーフセラピストの源流は、ミルトン・エリクソンです。

彼もまた医師(精神科医)です。

その他、認知療法の創始者である、アーロン・ベックも精神科医ですね。

つまり、精神科医を源流に持つ心理セラピストは、医師ではないとはいえ、その根底に「何とかする(その力はクライエントに備わっていると考える点は同じ)」があります。

これは、森俊夫先生が、東京大学医学部保健学科卒、同大学院医学系研究科第1種博士課程修了というキャリアからも伺えるのではないでしょうか。

クライエントは、何を求めているのか。

さて、カウンセラーとセラピストの違い(カウンセリングとセラピーの違い)はご理解いただけたのではないでしょうか。

しかし、それは「あなた」だからご理解頂けたのだと思います。

当の「クライエント」は、この違いを理解しているとは限りません(むしろほとんどの場合、理解されていないと思います)。

例えば、子どもが発達障害であり、今後の子育てに悩んでいるクライエントがいるとします。

そのクライエントのニーズは何なのか。

あなたは何を自らのサービスとして、そのクライエントに提供しようと考えるのか。

カウンセリング?
コーチング?
セラピー?
それともコンサルティング?

あなたが提供しようとしているこれらのサービスは、クライエントのニーズに合致しているのか。

これが合致していないと、当然「クレーム」「ラポール構築失敗」になります。

ただ話を聴いてほしいクライエントに対して、「何とかしよう」と意気込んでもお役には立てません。

また「何とかこの苦しい現状を打開したい」と考えているクライエントに対して、「私はあなたと共にいます」とアピールしたところで、屁のツッパリにもならないと言われるかもしれません。

何より「クライエントのニーズを無視して、自分が提供したいサービスを提供する」のであれば、それこそ「自分本位」です。

自分本位のサービスではなく、クライエントのニーズを考える。

それが「クライエント中心」ではないでしょうか。