このエントリーでは、キャリアコンサルタント試験合格者向けに、実務的なキャリアコンサルティングと逐語録の活用について解説しています。

全神経をクライエントに集中するのではなく、戦略的に話を聴く

キャリアコンサルタント養成講習の指導でよくあるのが「全身全霊で話を聴く」や「全神経をクライエントに集中する」「命がけで話を聴く」など、「お題目」「意気込み」はすごいけれど、では実際にどうするのか誰も教えられないし、はたまたそれが結果としてクライエントにどう影響するのかなどは無視されているものです(例えば「命がけ」を圧に感じるクライエントの存在は?「命がけ」で聴いたときとそうでないときの比較検証は?等)。

これらはまさに、根拠のない日本的精神論・根性論とでもいうような指導です。

学科試験で「ロジャーズは、『全神経をクライエントに集中しなければならず、それが必要にして十分な条件の一つである』と述べた」と出題されたら、あなたはそれを正解と判断しますか?

養成講習を受講している場では、疑問に思わないかもしれませんが、これらの日本的精神論・根性論がロジャーズの「必要にして十分な6条件」に上がっていない以上、不要であり指導としては誤りです。

こういった指導は、個人的理念としては別に誤りではありませんし、好きにすればよいと思いますが、他人に指導する場で口に出すような類のものではありません。

キャリアコンサルティングを戦略的に行う。

一部の方は、「戦略」という言葉に拒否反応があるともいわれます。戦争をイメージすることが理由のようですね。

クライエントにどうなってほしいか。その「在り方」が分かっていることと、その「在り方」にクライエントが歩んでいくようにエスコートするアプローチを、私は「戦略的アプローチ」と表現しています。

来談者中心療法における戦略的アプローチ例

例えば、諸富祥彦先生によれば、来談者中心療法において、「自分自身との対話」が生じるためには、全身全霊で話を聴くのではなく、実はその逆とも言える「支援者がいなくなる」ようなあり方がクライエントとの関係性において重要と述べられています。

「たしかに二人でいるのだけど、何だか自分『ひとり』しかいないような」そんな意識状態が生まれてくる

「カール・ロジャーズ入門 自分が”自分”になるということ」(©諸富祥彦 コスモスライブラリー)

これは諸富先生が述べられているように、(意識的・無意識的に)エスコートした結果、クライエントに「変性意識状態」が生じています。

つまり、来談者中心療法においても、「クライエントを自己対話と見紛うような、『変性意識状態に移行させるアプローチ』が重要になる」と述べられているんですね。

この変性意識状態に移行させるような応答を「意識的に行う」のであれば、それは来談者中心療法においても、戦略的アプローチとなります。

面談は、理論に基づいて戦略的に行う

キャリ魂塾では、ヒプノセラピー(催眠療法)体験会などを開催しています。

こちらにご参加いただいた方はご存じかもしれませんが、この体験会において、私が15分から20分で行っていることは、「変性意識状態へのエスコート」です。

だから、例えば「あなたのキャリアに役立つ可能性のあるビジョン」が見えたりするわけですね。

つまり、そこではキャリ魂太郎(支援者)が消えて、「自分自身との対話」が生じていることになります。

そう、諸富先生の考え方をベースにするならば、なんとロジャリアンとエリクソニアンは、目指すところが同じと言えるんです。

また、ご参加いただいた方は思い出していただきたいのですが、私はあなたに「イルカとの触れ合いが見えますよ。あなたが本当はイルカのトレーナーになりたいのですね」なんてひとことも言いませんよね笑(これが催眠であると勘違いされている方が多いのが現実です。催眠に掛けられて「そうだ、私はイルカのトレーナーになりたいんだ!」なんてのが💦)

クルンボルツ「偶然を機会に変える5つのスキル」を戦略的に行う

エリクソンや催眠療法は、キャリアコンサルタントにはなじみが薄いので、ここではキャリアコンサルタントに人気のあるクルンボルツと彼の「偶然を機会に変える5つのスキル(プランドハプンスタンス理論)」を戦略的に活用するケースを、例に挙げてみます。

クライエントが、このように述べたとします。

田村さん田村さん

管理職試験なんて、受けて落ちたら身の程知らずって思われるだけだし…

あなたは当然、「プランドハプンスタンス理論」から「偶然を機会に変える5つのスキル」と「行動阻害要因」を知っているはずです。

なのでクライエントの応答から「失敗への恐れ」があると見立てることができるはず。

そうすると、プランドハプンスタンス理論に基づいて見立てをしたのですから、通常その後の応答はプランドハプンスタンス理論を用いた戦略的アプローチを提供していくことになります。

そうすると、下記のような応答例が考えられます。

キャリ魂太郎キャリ魂太郎

落ちた時の周りの評価が気になるんですね。管理職試験は一度しか受験できないんですか?

つまり、CLの発言を『聴いた段階』で、「クルンボルツの行動阻害要因として、「失敗への恐れ」を「見立て」た。

その「見立て」に基づいて、プランドハプンスタンス理論を用いた支援を構築するのであれば、その後のCCの発言は「偶然の出来事を捉える5つのスキル」、ここでは「持続力」を備えるためのアプローチになる。

それは、行動阻害要因と5つのスキルは「表裏一体」だからです。

理論に基づいたアプローチは、戦略的に行って初めて検証できる。

このように、本来はクライエントの応答の問題点を「理論的に把握」して初めて、キャリアコンサルタントの応答が理論的に正しいかどうかを検討しうることになります。

キャリアコンサルティング業界で指導される傾聴は、冒頭で述べたように、クライエント主導になったものになることがほとんどであり、ある意味では「行き当たりばったり」になります(なので、堂々巡りに陥ることが多いんですね)。

それは「傾聴が『全て』である」と考えてしまうからです。しかし、「心理療法として傾聴を『ベース』にする」場合は、戦略的に(理論に基づいて)言葉を配置していくことになります。

先ほどの、クライエントの応答について、「行動阻害要因である「失敗への恐れ」が生じている」と見立てれば、表裏一体のスキルである「持続性」を高める方向で組み立てることが理論的には可能です。

これはあくまで一例ですが、私がもしそのようなクライエントの応答を聴いて、プランドハプンスタンスで支援しようと思ったら、下記のような逐語録が出来上がると思います。

このように「クライエントの応答のポイント」を、しっかりと「理論に基づいて把握する」ことができているかが、逐語録を作る大きな意義の一つです。

逐語録を適切に使えば、自らのアプローチが戦略的に「理論に基づいたものになっているか」また、「言葉をとらえる」ことができているか、「理論に基づいたアプローチの検証」ができるようになります。

ぜひ逐語録を「クライエントの応答のポイント」と「キャリアコンサルタントの応答の意図」に分けて記載し、有効に活用してみてくださいね。