資格で理想のライフスタイルを実現する、キャリ魂塾のキャリ魂太郎です。


このエントリーでは、企業内キャリアコンサルタントへの相談ニーズが低下するとの予測について考察するとともに、多重関係を前提とした制度設計の問題点を述べています。

リストラと企業内キャリアコンサルタントへのニーズ低下

損保ジャパンは、元々従業員のキャリアアップ等に熱心に取り組まれており、同社の人事部ライフデザイングループの活動は「生涯現役社会の実現に向けて─高年齢者の活用の実態と課題─」(主催:労働政策研究・研修機構)というフォーラムにおいても、事例報告として取り上げられています。

その損保ジャパンが、大規模なリストラとして行ったのが、介護を行うグループ企業への配置転換でした。

損害保険ジャパン日本興亜が2020年度末までに、従業員数を17年度比で4000人程度減らす方針であることが24日、分かった。全体の約15%に相当する。ITを活用し、業務の効率化を進める。余った従業員は介護などを手掛けるグループ企業に配置転換し、新卒採用も抑える。希望退職者の募集は予定していない。

(引用:時事ドットコムニュース

この損保ジャパンのリストラは、キャリアコンサルタント制度にも、大きな影を落としました。

企業内キャリアコンサルタントが、リストラ対象者のピックアップ等の職務を担わされているのではないかという疑惑は、以前から根強いものがあります。

これは、セルフ・キャリアドックなどを実施する際に、感じられている方もいらっしゃるでしょう。

そして、「キャリアコンサルタント」を多彩に活用している大企業が、このようなリストラを発表したことにより、従業員からキャリアコンサルタントへの視線は非常に厳しくなったと言わざるを得ません。

終身雇用制度崩壊による従業員の「非管理職」ニーズの増加

次に、終身雇用制度崩壊による従業員マインドの変化です。

昭和・平成であれば、管理職への「昇進」は、社内外でのステータスや収入増といったリターンが見込めることから、従業員のモチベーションに寄与してきました。

しかし、今や管理職は

・残業代が出ない
・マネジメント業務のストレス
・長時間労働

といった現実やイメージが広がりつつあります。

特に、管理職になると残業代が出ないという会社は未だに少なくなく、収入低下にもつながりやすくなっています。

加えて、昇進しなくて良いと割り切れば、残業時間を抑えた労働が可能になり、余暇を使った副業に取り組むこともできます。

従業員の立場からすれば、非管理職を選ぶことで、

・残業代が出る
・副業スキルの習得
・短時間労働

と考えることも可能です。

そして「副業スキル」は一度身に付ければ、生涯に渡って役立つスキルも多く、何より会社の業績に影響を受けません。

そのため、企業内キャリアコンサルタントの勧める「所属企業で求められるスキル」よりも、動画編集や趣味を生かしたマネタイズなど、「組織に属さず収入が得られるスキル」の習得ニーズの方が高まることが予想されます。

企業内キャリアコンサルタントは、従業員(相談者)利益を第一にできるのか?

東京オリンピック後、囁かれているように景気が下降するのであれば、今後、企業内キャリアコンサルタントは、大きな踏み絵を迫られることになるでしょう。

それは「相談者である従業員の利益」と「雇用主である企業の利益」が相反するという現実です。

つまり、相談者は「社外で活用できるスキル」の習得を希望し、企業は「組織内キャリア開発」を希望しているという状況ですね。




企業内キャリアコンサルタントの制度的欠陥と倫理綱領の解釈

あなたが「企業内キャリアコンサルタント」ならば、倫理綱領第11条2項をどう考えますか?

(組織との関係)第11条 略
2 キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングの契約関係にある組織等と相談者との間に利益が相反するおそれがある場合には、事実関係を明らかにした上で、相談者の了解のもとに職務の遂行に努めなければならない。

(引用:キャリアコンサルタント倫理綱領

私は、この倫理綱領が公表されてから、ずっと

・誰に事実関係を明らかにするのか(相談者サイドは、通常事実関係は明らか)
・相談者の了解が得られない場合の職務遂行について
・どの行為が「努力義務」なのか
・そもそも努力義務で良いのか

を指摘してきました。

事実関係を明らかにするのは、誰に対してなのか。

努力さえすれば、相談者の了解を得られないまま職務を行える?

そんなことは元から不可能です。

努力義務であれば、実務的には「努力」とはどこまでを言うのか。

この「努力義務」はどの行為に対して述べているのか。

あなたが相談者の立場であったとき、このようなあやふやな規定で、自分の相談内容が守られると考えるでしょうか?

元々「企業内キャリアコンサルタント」という位置づけは「多重関係」を前提としています。

しかし、「キャリアコンサルタントが相談者と雇用主の板挟みとなって苦しむ」、そんな制度設計はすべきではなかったのです。

これは、私自身が昨年の「厚生労働省連絡会議」で発言し、厚労省人材開発統括官に指摘し、雇用能力研究会の研修においても、木村周先生、下村英雄先生に直接伝えた事実です。

この制度的欠陥を放置したまま制度推進し、相談者である労働者との間にラポールが構築されると考えているならば、それは非常に甘い考えです。

国家資格者であるキャリアコンサルタントの守秘義務違反は、当然「資格を失う」こともあります。

少なくとも企業内キャリアコンサルタントという「在り方」がイバラの道であること、今後その棘が鋭利になってくることは間違いありません。