キャリアコンサルタント及び受験生が、決して使ってはいけない言葉があります。

それが「自己責任」です。

「自己責任」という言葉を使った時点で、ハッキリ言えば素人以下の知識しかないということになるからです。

キャリコン学科試験:「キャリア意思決定」の4要素

クルンボルツは、職業選択=「キャリア意思決定」に影響を及ぼす4つの要件を述べています。

それが下記の4つです。

「キャリア意思決定」に影響を及ぼす4つの要件

1.生得的資質・能力(人種、性、身体条件、性格等)
2.環境的諸条件・出来事(景気、求人数といった労働市場や訓練機会)
3.学習経験
  道具的経験:個人が得た経験
  連合的経験:他人の観察によって得た経験
4.課題解決スキル(問題解決能力、習慣、精神力等)

4つの要件をさらに詳細にチェック

そして、この4つの要件をさらに細かく見てみます。

生得的資質
➡親の影響(遺伝)

環境的諸条件
➡訓練機会とは例えば、大学進学や習い事などを含むため、家庭の影響が大

学習経験
➡家庭で得られた経験や教育機関で得られた経験の比率が高いため、家庭の影響が大

課題解決スキル
➡習慣は環境の影響(例えば毎朝朝食を摂る等)が大きいため、家庭の影響が大

なんということでしょう。キャリア意思決定(職業選択)のほとんどが「家庭環境≒親の収入」によって影響されていたのです。

「自己責任」「20歳過ぎたら親の責任はない」は素人考え

クルンボルツの「キャリア意思決定における」社会的学習理論(SLTCDM)理論は、バンデューラの社会的学習理論を基礎とし、「職業選択行動は学習の結果であって、過去に起こった出来事と将来起こるかもしれない出来事とを結び付けて解釈した結果」とするものです。

学習そのものが、成育歴と密接に影響しており、過去に(家庭内で)起こった出来事(親・兄弟との経験)が、将来起こる出来事への解釈にも大きく影響します。

その一つの例が「赤ちゃん取り替え事件」です。

赤ちゃん取り替え事件と環境の影響

赤ちゃん取り替え事件とは、60年前に順天堂医院で生まれたA氏とB氏が、出生直後に取り違えられてしまった事件です。

【庭に池がある裕福な家庭】で生まれたA氏が、【生活保護を受けながらテレビもない6畳の部屋に住む母子家庭】に生まれたB氏と、出生直後に”取り違え”られてしまっていたことが、60年経ったいま判明した。

明らかになったきっかけは、”裕福な家庭”に取り違えられたB氏が、父親の介護に協力的ではなかったことだ。

その態度に、弟らが血縁関係を疑い、相続問題も重なって、親子関係を確認する訴訟を起こした。もちろん、そのバックボーンには、「家族と似ていない」(両氏親族)というのもあったのだろう。

引用:エキサイトエキサイトニュース

男性はこの病院で出生し、13分後に生まれた別の新生児と取り違えられ、実の両親とは離ればなれになった。

2年後に戸籍上の父親が死亡し、生活保護を受けながら2人の兄とともに母親に女手一つで育てられた。

取り違えがなければ、自営業の裕福な家庭の長男として育てられたはずだったが、ラジオを除いて家電製品は一つもない貧しい家庭、中学を卒業すると町工場に就職して働きながら定時制の工業高校を卒業した。

その後、職を転々としながら還暦を迎えた今も独身で、同居する2番目の兄の介護をしながらトラックの運転手として働いている。その育ててくれた母親も亡くなり、実の両親もすでに亡くなった。

(引用:J-CAST TVウォッチ

この事件によって、「遺伝的な知能が大学卒業可能であっても、家庭が貧しければ大学へ進学することは叶わない」という現実が突き付けられました。

スーパーの職業的発達命題

スーパーは、「職業的発達命題」において、下記のように述べました。

キャリアパターンとは、到達した職業レベルである。

キャリアパターンの性質は、各個人の親の社会経済的レベル、本人の知的能力、教育レベル、スキル、パーソナリティの特徴、キャリア成熟、および個人に与えられた機会によって決定される。

太字&下線で強調した部分が、「親の収入によって左右される要素」です。

「自己責任」は無知が故の冷たい言葉

貧困は自己責任、氷河期は自己責任、進学するもしないも自己責任、20歳超えたら親の責任は無い。

そんな言葉は「無知による冷たい言葉」でしかありません。

だからこそ、キャリアコンサルタントは絶対に「自己責任」という言葉を使ってはいけないんです。

自己責任論は、A氏の人生を否定することに繋がります。

そして、A氏が、自らが与えられた環境で一生懸命に生きてきたことを否定するような冷たい人に、支援者としての資質・適性があると言えるでしょうか。

おりしもコロナ禍の時代、私たちが考えなければいけないことは、「貧困問題」を「自己責任」と切り捨て、放置し続ける限り、社会格差は固定され、貧富の差は拡大していくという事実にどう対処していくか、ではないでしょうか。

このあたりは、「社会正義のキャリアガイダンス」理論になりますが、残念ながら出題可能性は非常に低い論点です。