キャリ魂太郎です。

このエントリーでは、第10回キャリアコンサルタント学科試験問5の各選択肢の論点を詳細に解説しています。

第10回国家資格キャリアコンサルタント学科試験問5 問題と解説

問題

キャリアコンサルタントの倫理、行動規範に関する次の記述のうち、適切なものの組み合わせはどれか。

A.キャリアコンサルタントは、常に専門家として威厳をもって職務を行い、相談者からの尊敬を確保しなければならない。
B.キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、自己の専門性の範囲を自覚し、専門性の範囲を超える業務の依頼を引き受けてはならない。
C.キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、相談者との多重関係を避けるよう努めなければならない。
D.キャリアコンサルティングの契約関係にある組織等と相談者との間に利益が相反するおそれがある場合には、事実関係を明らかにした上で、組織の意向を優先して職務の遂行に努めなければならない。

出典:第10回国家資格キャリアコンサルタント学科試験

解説

簡単に解説すれば十数行で済む論点ではありますが、それだと身に付きませんし、何より「ほとんどの受験生は、キャリアコンサルタント制度のことをよく知らずに受験している」こともあるため、詳細解説をすることにしました。

(実際、私もこの複雑な制度を理解したのは、合格してからです。)

大前提として、一民間機関であるキャリアコンサルティング協議会が定めた倫理綱領に従わなければならない義務は一切ありません。

協議会は、試験問題を作成する試験機関であり、またキャリアコンサルタント登録事務機関ではありますが、協議会自体は「法律に基づいて、キャリアコンサルタントによって組織された強制加入団体」ではないからです。

(特にJCDAで実務経験受験する場合、登録事務でしか協議会を知らないケースもありますよね。)

その観点からすれば、キャリアコンサルタント倫理綱領が、国家資格試験である「国家資格キャリアコンサルタント試験」や「キャリアコンサルティング技能士試験」に出題されるのは、本来はおかしいということになります。

蛇足ですが、実際に私は、「個々のキャリアコンサルタントとほぼ関係のない、一民間機関が定めた倫理綱領が、国家試験に出題される根拠を示してほしい」と、協議会に伝えたことがあります。

協議会の回答は、「全養成講座実施団体で組織されているので…」という全く関係のない回答でした。

なぜこんなことまでお伝えしているかというと、一般財団法人オールキャリアコンサルタントネットワーク(ACCN)が設立され、今春にも会員募集を始めることが予定されているからです。

そして、このACCNもただの民間団体です。

協議会の倫理綱領も一民間団体が定めたものですから、万一、ACCNが別途倫理綱領を定めればどうなるでしょうか?

お分かりですよね。

本来「国家試験には、法的根拠のない一民間機関の定める倫理綱領が出題されてはいけない」のです。

…前置きが長くなりましたが、現実的に出題されるのだから勉強は必要です。

欲を言えば、法令つまり、法律と条令、省令や通達、ガイドラインの違いなども学ぶ必要がありますし、倫理綱領との違いも知っておかなければなりません。

ただ、そこまでやっていると時間がなくなりますから、今回は法律と倫理綱領の違いをざっくりと知っておいて下さい。

法律と倫理綱領(職業倫理)の違い

まず法律と倫理綱領(つまり職業倫理)について。

法律も倫理綱領も、ルールであり社会的規範です。

しかし、大きく違う点があります。

ルールとしての法律は「最低限のルール」

法律は、我々有権者が選挙で選んだ代表が作成したものです。

だから、国家としての強制力があり、守秘義務違反などについての罰則があります。

罰則があるため、その基準は「最低限」のものとなります。

つまり「最低限守るべきルール」が法律です。

この「最低限守るべきルール」を破ると、国家が罰するわけですね。

倫理綱領は「理想」と「現実」のルール

法律とは異なり、倫理綱領は「専門家として目指すべき理想像」と「命令倫理」(「してはならないこと」と「しなければならないこと」)で構成されます。

簡単に言えば「理想」と「現実」です。

例えば、二重関係が生じないことが理想ですが、キャリアコンサルタント制度上、ほとんどの場合二重関係は避けられませんので、現実的な運用が必要となります。

なので、必然的に現場をよく理解した職業者の団体で決めたルールとなり、そのルールを破った場合、その団体によって罰することがあります。

しかし、協議会は個々のキャリアコンサルタントを罰する権限を持ちません。

倫理綱領は、我々キャリアコンサルタントが選んだ代表が作成したものではないのだから、当然ですね。

そして、「キャリアコンサルタントの在り方」は基本的に自由です。

この理解をもって、問5をみていきましょう。

選択肢A

キャリアコンサルタントの在り方は基本的には自由ですので、専門家としての威厳をもって職務にあたることが必要な場面もあるかもしれません。

例えば、フロイトは非常に権威的なアプローチをしたと言われますし、パーソンズやウィリアムソンは指示的なアプローチを行っています。

また相談者からの尊敬を確保したいという方もいるかもしれません。

しかし問題文には「常に、~しなければならない」とあります。

協議会という個々のキャリアコンサルタントに何の関係もない団体から、「公正であること」や「信頼を得ること」を除けば(それは当然ですからね)、「常にこうありなさい」というキャリアコンサルタントの在り方を規定されるいわれはありませんので、本選択肢は倫理綱領の各条項を知っているかどうかにかかわらず、その性質上誤りとなります。

選択肢B

Bは、実は倫理綱領や行動規範の以前の話です。

キャリアコンサルタントが、自己の能力を超える依頼を受けて、困るのは誰でしょうか。

それは「相談者」です。

相談者が困ることが許されるはずがありませんよね。

次に困るのは?

そう、「自分自身」です。

間違えた対応で相談者に損害が発生した場合、どう補償するのか。

だから、そういった事態にならないよう、自らの能力を自覚し、リファーを選択肢に入れておくわけです。

これも、倫理綱領以前に当たり前の話なんですね。

選択肢C

まず、多重関係とは何でしょうか。

これは私の知る限り、多重関係を最も厳しく規定・制限している公認心理師必携テキストを参考に、下記のように要約してみました。

①カウンセラーが複数の専門的関係の中で業務を行っている状況
②カウンセラーが専門家としての役割と、それ以外の明確かつ意図的に行われた役割の両方を行っている状況
③上記の①②が同時又は相前後して生じる場合
以上を二重関係
としています。

例えば、友人同士の悩みの相談を行うことは、二重関係とされますし、教師がその担当する生徒に対してカウンセリングを行うことも二重関係となり、避けなければなりません。

簡単に言えば、「面談の場において『「援助者」「相談者」の関係』以外は全て二重関係」となります。

しかし、キャリアコンサルタントは、その業務性質上、「カウンセリング・モデルを使う」職業ではあるものの、純粋な「援助者」であることは少ない職業です。

例えば、労働者派遣や職業紹介の場では、どうしても「相談者に働いてもらって初めて売り上げになる」という現実があり、完全な「支援者と相談者」の関係ではありません。

ハローワークのキャリアコンサルタントであっても、就職してもらって初めて実績としてカウントができるという立場の方もいます。

このように、キャリアコンサルタントは、その制度上「二重関係を許容せざるを得ない」職業なのです。

だから選択肢C(というか倫理綱領)は、努力義務になるわけです。

キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、相談者との多重関係を避けるよう努めなければならない。

出典:キャリアコンサルタント倫理綱領第10条第2項

選択肢D

Dは、キャリアコンサルタント倫理綱領第11条第2項「組織の意向を優先」ではないので当然誤り。

これでもいいんですが、そもそも根拠となる倫理綱領の文言がおかしいと思いませんか?

事例で考えてみましょう。

「キャリアコンサルティングの契約関係にある組織等」とあります。

これは、簡単に言えば企業です。

この企業と、相談者との間に「利益が相反するおそれがある場合」ですね。

例えば、相談者が「この会社に入社して3年ですが、ずーっとサービス残業で、残業代がつかないんです。これを労働基準監督署に告発したいのですが…」

と言ってきました。

長期的に見れば、会社が法令順守に動くことは利益がありますが、やはり未払い残業代の支払いリスクとその波及リスクがあり、短期的には企業の利益と考えることは難しいでしょう。

これが「キャリアコンサルティングの契約関係にある組織等」と「相談者」の利益相反です。

ここに、倫理綱領第11条第2項の最大の問題があります。

あらためて、解答の根拠である倫理綱領第11条第2項を見てみましょう。

キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングの契約関係にある組織等と相談者との間に利益が相反するおそれがある場合には、事実関係を明らかにした上で、相談者の了解のもとに職務の遂行に努めなければならない。

出典:キャリアコンサルタント倫理綱領第11条第2項

事実関係を明らかにする

「事実関係を明らかにした上で」とあります。

「誰に」「どんな事実関係」を「明らかにする」のでしょうか?

相談者には、最初にキャリアコンサルタントである旨や、キャリアコンサルティングの目的と範囲を伝えていますし、何よりも「今その事実を打ち明けたのが相談者」なのですから、相談者に対して、事実関係を明らかにする必要があるでしょうか。

では企業?

企業に、事実関係を明らかにする?

それはおかしいですよね。相談者との間の守秘義務違反となるのは当然です。

つまり、倫理綱領のこの文言自体、利益相反のおそれがあった場合に、キャリアコンサルタントがなすべき行為が明確になっておらず、おかしいのです。

相談者の了解のもと

次に「相談者の了解のもと」とあります。

何を了解してもらうのでしょうか。

「それはこの企業から報酬を頂いている私にはちょっと難しい問題ですので、今回は別のことを伺いたいのですが…」

とでも伝えるのでしょうか。

ラポールも壊れますね。

努めなければならない

最後に「努めなければならない」と努力義務になっています。

この努力義務は「何に対しての義務」なのでしょうか。

「事実関係を明らかにする」こと?

「相談者の了解を得る」こと?

それとも「職務の遂行?」

そして最後に「努力したらそれでOKなのか?」という問題があります。

倫理綱領を作成した顔ぶれに、社労士は入っているものの弁護士は入っていません。

弁護士にしっかりと文言をチェックしてもらうべきでした。

倫理綱領第11条第2項自体が疑義を招く文言である。

以上の観点から、キャリ魂塾的には、「倫理綱領第11条第2項自体が疑義を招く文言であり、元々不適切である」と考えていますし、2年近く前になりますが、この問題を協議会に口頭にて伝えています。

なぜ、このような細かいことを私がお伝えするのか。

それは、先に述べたように「職業倫理(倫理綱領)はその団体内でのルール」となるからです。

協議会が倫理綱領を持ち出して「信用失墜行為違反」などの処分の根拠とする可能性がわずかでもあるのならば、当然その文言は解釈も含めて明確にしておかなければなりません。

このような文言を含む倫理綱領が、個々のキャリアコンサルタントとほぼ関係のない少数の人々によって決定され、それが国家試験に出題される。

これが今のキャリアコンサルタント制度が抱える、様々な問題の根幹にあるのではないでしょうか。

問5の解答

選択肢BとCが適切な選択肢となるため、正答は2となります。

単に、文言に照らし合わせるだけではなく、理解する方が忘れず身に付くということで、詳細に解説してみました。

ご参考になりましたら幸いです。