キャリ魂太郎です。

このエントリーでは、平成30年8月26日に実施された、第9回国家資格キャリアコンサルタント試験のうち、疑義のあるものについて考察を行っています。

※本エントリーでは、著作権法上問題のない範囲での「引用」を行っております。

問2選択肢4

職業能力開発促進法の改正(平成28年4月1日施行)により、キャリア自律組織において推進しなければならず、また事業主はそのための支援を提供しなければならないものとされた。

出典:第9回国家資格キャリアコンサルタント学科試験

※赤字強調はキャリ魂太郎による。

疑義1「キャリア自律」という文言について。

・職業能力開発促進法及び附則の全文について、「ctrl+f」により抽出検証したが、職業能力開発促進法上、「キャリア自律」という文言は存在しない。
・以上により、当然、職業能力開発促進法において「キャリア自律」の定義も存在しない。
・キャリア自律なる造語は定義も不明であり、範囲や行為も個々人により異なる文言(概念)であり、そのような造語が職業能力開発促進法によって「組織」が「推進しなければならず」また「事業主が」「支援を提供」「しなければならない」と定められたとは言い難い。
・本問は「職業能力開発促進法が改正された」ことについて問うており、常識的に考えて「職業能力開発促進法上に無い文言」が正しい選択肢となるとは考えられない。

疑義2「組織」という文言について。

・職業能力開発促進法及び附則の全文について、「ctrl+f」により抽出検証したが、職業能力開発促進法において、「組織」という文言があるのは1か所(下記引用参照)のみである。
・いわゆる人的集合体としての「組織」と考えられるが、その範囲等の定義も不明であり、職業能力開発促進法の改正によって定められたとは言い難い。
・職業能力開発促進法において、「キャリア自律」は「組織」において「推進しなければならない。」という文言はない。
・本問は「職業能力開発促進法が改正された」ことについて問うており、常識的に考えて「職業能力開発促進法上に無い文言」である「組織において推進しなければならず」が正しい選択肢となるとは考えられない。

第三十条の十一 登録試験機関は、毎事業年度経過後三月以内に、その事業年度の財産目録、貸借対照表及び損益計算書又は収支計算書並びに事業報告書(これらの作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この条において同じ。)の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。次項及び第百五条の二において「財務諸表等」という。)を作成し、五年間、その事務所に備えて置かなければならない。

四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて厚生労働省令で定めるものをいう。)により提供することの請求又は当該事項を記載した書面の交付の請求

出典:職業能力開発促進法

疑義3「支援を提供しなければならないものとされた。」という文言について。

・職業能力開発促進法上、事業主に「努力義務以上の法的義務」を課した文言は存在しない。
・「職業能力開発促進法が改正された」こと、すなわち法律の文言を問うのであるから、「義務」「努力義務」「方針その他」は明確に区別されなければならない。
・「ctrl+f」により職業能力開発促進法全文を抽出検証した結果、「しなければならない」という文言は37ヵ所あるが、事業主に関しては下記のみであり、本問選択肢とは関係がない。

第二十六条の三 実習併用職業訓練を実施しようとする事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、実習併用職業訓練の実施計画(以下この節において「実施計画」という。)を作成し、厚生労働大臣の認定を申請することができる。
2 実施計画には、実習併用職業訓練に関する次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 対象者
二 期間及び内容
三 職業能力の評価の方法
四 訓練を担当する者
五 その他厚生労働省令で定める事項

出典:職業能力開発促進法

職業能力開発促進法上の事業主の「努力義務」

・その他職業能力開発促進法上、事業主に義務を課している規定として存在するのは努力義務(「~に努めなければならない」)である。

第四条 事業主は、その雇用する労働者に対し、必要な職業訓練を行うとともに、その労働者が自ら職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける機会を確保するために必要な援助その他その労働者が職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上を図ることを容易にするために必要な援助を行うこと等によりその労働者に係る職業能力の開発及び向上の促進に努めなければならない。

出典:職業能力開発促進法
第十二条 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる業務を担当する者(以下「職業能力開発推進者」という。)を選任するように努めなければならない。
一 前条第一項の計画の作成及びその実施に関する業務
二 第九条から第十条の四までに定める措置に関し、その雇用する労働者に対して行う相談、指導等の業務
三 事業主に対して、国、都道府県又は中央職業能力開発協会若しくは都道府県職業能力開発協会(以下この号において「国等」という。)により前条第一項の計画の作成及び実施に関する助言及び指導その他の援助等が行われる場合にあつては、国等との連絡に関する業務
出典:職業能力開発促進法

第十二条の二 事業主は、必要に応じ、労働者がその習得に相当の期間を要する熟練した技能及びこれに関する知識(以下この条において「熟練技能等」という。)に関する情報を体系的に管理し、提供することその他の必要な措置を講ずることにより、その雇用する労働者の熟練技能等の効果的かつ効率的な習得による職業能力の開発及び向上の促進に努めなければならない。
出典:職業能力開発促進法

職業能力開発促進法上の事業主への「原則や方針を示す」もの。

「~するものとする。」は法律上の解釈として、「合理的な理由があればしなくても良い」場合もあるとされ、努力義務よりも強制力は弱いものとされます。

第十条 事業主は、前条の措置によるほか、必要に応じ、次に掲げる措置を講ずること等により、その雇用する労働者に係る職業能力の開発及び向上を促進するものとする。

出典:職業能力開発促進法

第十条の三 事業主は、前三条の措置によるほか、必要に応じ、次に掲げる措置を講ずることにより、その雇用する労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上を促進するものとする。
一 労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと。
二 労働者が実務の経験を通じて自ら職業能力の開発及び向上を図ることができるようにするために、労働者の配置その他の雇用管理について配慮すること。

出典:職業能力開発促進法

第十条の四 事業主は、第九条から前条までに定める措置によるほか、必要に応じ、その雇用する労働者が自ら職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける機会を確保するために必要な次に掲げる援助を行うこと等によりその労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上を促進するものとする。
一 有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇、再就職準備休暇その他の休暇を付与すること。
二 始業及び終業の時刻の変更、勤務時間の短縮その他職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける時間を確保するために必要な措置を講ずること。
2 前項第一号の有給教育訓練休暇とは、職業人としての資質の向上その他職業に関する教育訓練を受ける労働者に対して与えられる有給休暇(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十九条の規定による年次有給休暇として与えられるものを除く。)をいう。
3 第一項第一号の長期教育訓練休暇とは、職業人としての資質の向上その他職業に関する教育訓練を受ける労働者に対して与えられる休暇であつて長期にわたるもの(労働基準法第三十九条の規定による年次有給休暇として与えられるもの及び前項に規定する有給教育訓練休暇として与えられるものを除く。)をいう。
4 第一項第一号の再就職準備休暇とは、再就職のための準備として職業能力の開発及び向上を図る労働者に対して与えられる休暇(労働基準法第三十九条の規定による年次有給休暇として与えられるもの、第二項に規定する有給教育訓練休暇として与えられるもの及び前項に規定する長期教育訓練休暇として与えられるものを除く。)をいう。

出典:職業能力開発促進法

本問は「最も不適切」なものを選ぶ問題である。

「最も不適切」なものを選べとある以上、不適切度合いに差があることは当然考えうるが、「職業能力開発促進法という法律に存在しない文言である『キャリア自律』」を事業主(組織)に強制させる(義務化)法改正が行われた」と読める問題文は、比較検討しても最も不適切と言って差し支えないと考えます。

キャリアコンサルタントは「職業能力開発促進法」に定められた国家資格者である。

ご承知の通り、キャリアコンサルタントは「職業能力開発促進法」に定められた国家資格者であり、職業能力開発促進法は非常に重要な「職務職業の根拠となる」法律です。

その職業能力開発促進法に「存在しない文言」である「キャリア自律」を「組織及び事業主に義務化した」と読める選択肢を、正しい選択肢(もしくは比較的誤りではない選択肢)として選ぶことはできません。

この「キャリア自律」が職業能力促進法上の学説・解釈として90%以上周知されていたとしても、定義・規定されていない造語が「法律上」正しいと言える余地はありません。

そして、「組織」という文言も、団体・企業的な意味を持つ文言としては定義されておらず、「推進しなければならないという義務」は課されていません。

最後に、事業主に課されているのは「努力」義務です。

まとめ:問2選択肢4は出題ミスであると考えます。

以上により、第9回国家資格キャリアコンサルタント試験問2選択肢4は出題ミスであると考え、全員正解または選択肢4も正解に加えることをキャリアコンサルティング協議会に求めております。
(本問に関する照会は8月27日14時30分現在、キャリ魂塾が初めての確認であった旨、回答を得ています)

また、公式解答の変更がない場合はその理由を明確にするように、キャリアコンサルティング協議会ではなく、厚生労働省に求めていきたいと思います。

追記:平成30年8月29日 再度の協議会への修正依頼及び厚生労働省キャリアコンサルティング係への情報提供、そして解答修正が為されない場合の試験機関への指導依頼を行ったところ、「キャリア形成支援室として、試験機関に確認する」旨の電話連絡を頂きました。

その他の疑義問題は(疑義があれば)順次アップしていきます。
追記:お問い合わせも多数いただいており、大変申し訳ありませんが、現時点でその他の疑義問を検討する時間が捻出できておりません…

本エントリーにおける見解はキャリ魂塾 代表 キャリ魂太郎の見解であり、他の養成講座、指導校とは一切関係ありません。

個人的には問2選択肢4は「キャリア自律」についての花田光世氏の資料を、職業能力開発促進法に当たらずに、資料だけ見て作問したのではないかと思っています(元ネタっぽい資料だけ読めば、そう読めるんですよね…法律の出題をするのに、まさかその法律に当たらないで作ったのでしょうか。)。

が、当然ながら、私にも知識不足、また理解不足等至らない点もあろうかと思います。
どこの養成講座、試験対策校の講師も本問について疑義を示していない(先述のように照会を行ったのは私のみ)ようですので、私も自らの日本語読解能力について弱気になる部分もあります。
私の見解が誤りであると思われる方は、どうぞご教示頂けましたら幸いです。

キャリコン試験では「実技試験」という採点基準が不明な試験がある以上、受験生が弱い立場になりがちです。

キャリ魂塾では、受験生の皆様に代わり、試験機関の公正・適切な試験事務の実施を求めてまいります。

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