このエントリーでは、キャリアコンサルタント養成講習で指導され、また面接(試験)で多用される「おうむ返し」について、苦言を呈するものです。

なお、このエントリーで述べる「おうむ返し」とは、「相手の言うことをそのまま『おうむのように』伝え返す技法」を指します。

おうむ返しに「ラポール構築」のエビデンスはない

まず、結論からお伝えすると、この見出しタイトルの通りです。

「おうむ返し」によって、ラポールが構築されるというエビデンス(根拠)は、見つけられませんでした。

そう、このキャリコン村では、誰もが「おうむ返しをすると、ラポールが構築できる」と「思い込んでいる」のです。

ロジャーズは「おうむ返し」でラポール構築など言っていない

ロジャーズは「おうむ返し」でクライエントの問題が自分自身で解決されていく、という誤解について、もはやウンザリしていたと、諸富先生の「カールロジャーズ入門 自分が自分になるということ」で述べられていたように記憶しています。

いつも諸冨先生を引用するのも、偏りがあると言われればその通りなので、ほかの論文を調べてみました。

Rogers 自身が「リフレクション」という語を用いてカウンセリングの応答を解説していたのは、1942 年の著作(Rogers, 1942) の逐語記録解説のみであった。
さらに Rogers がリフレクションという語を用いる際、reflection of attitudes (態度のリフレクション) と reflection of feelings (気持ちのリフレクション) という表現があることを確認した。
1942 年の著書 (Rogers, 1942) にみられた具体的な応答を思い出すために、再び Paul と Herbert Bryan のケースを引用する。これらの例はどちらもRogers が reflection of feelings/attitudesの例として挙げたものである。
まずPaulの第 2 回面接の一部分である (Rogers, 1942 p.201 筆者訳)。

1.C:君は自分がそんなに情緒的ではなくて、他の人たちのようになれたらもっと幸せだろうと感じるんですね。

2.S:そうなんです。こんな恐怖なんかを感じるんじゃなくて…どんな状況でも冷静でスッキリと考えられるようになりたい。

3.C:でもそんなことじゃなくて、けっこう情緒的な自分を見つけてしまうんだよね。

このカウンセラーの応答について Rogers は、“to recognize and reflect feelings which Paul hasexpressed (Rogers, 1942 p.203)” と解説している。
3.C の応答は、Paul が体験している「恐怖(fears)」をそのままリフレクトせず、代わりに「情緒的 (emotional)」とリフレクトしており、「恐怖などの情緒に振り回されず冷静でいたいといくら自分で思っても恐怖などの情緒を感じてしまう Paul がいるんだ」というような Paul の実態を映し出そうとしている。
この応答は、クライエントが体験している「気持ち」そのものではなく、クライエントの自身に対する考え方、すなわち「態度」を映し出そうとしていると考えることができる。

次に HerbertBryan の第 6 回面接の一部分である (Rogers, 1942 p.398 筆者訳)。

S467:心は前よりもハッピーだよ、だけど腹にはいつものギュッとした痛みがあるんだ。もちろん、それは感染のようなものかもしれない、つまりそれがそのうち神経症になっていくのかもしれないけど、今のところはそうなっていないんだ。

C468:まあ、私は君が今日どう感じているのかはっきりわかると思うよ、そしてこう考えるんだ、つまり、なにか簡単な、適当な解決がそれに対してあったらいいのにな、と。

Rogers の解説によると、カウンセラーのこの応答は “highly successful in reflecting theattitudes expressed (Rogers, 1942 p.398)” とある。
つまり、態度を映し出すことができた「とても成功したリフレクション」だったと Rogers は考えていた。

(引用:傾聴における相互リフレキシブモデルの研究 河﨑 俊博)

いかがでしょうか。あなたが教わったような「相手の言葉をそのままおうむのように伝え返す」ことを、ロジャーズは「していない」のです。

クライエントに自律を言う前に、まず隗から始めよ

キャリコン養成カリキュラムでも、論述試験でも、面接試験でも、大抵「自律したキャリア形成を支援~」と述べるように指導されますし、私もそうお伝えしていることは事実です。

しかし、クライエントに自律を言うキャリアコンサルタントが、その実、全く自律していない。

あなたは、ロジャーズ(に限りませんが)の論文を自ら読んで、どの論文のどの部分から、「おうむ返しでラポールが構築できる」という結論を導き出したのでしょうか?

もし、そういった検証・確認作業を行っていないのなら、あなたはなぜ、「おうむ返し」をするのですか?

「そう教えられたから」しているなら、それは「自律」しているのでしょうか?

おうむ返しも、クライエント全集中も絶対ではありません

クライエント役をしているとき、冗長なおうむ返しを多用されると、私は内心「またおうむ返し…今そう言ったよ…」とウンザリしています。

しかし、国家資格試験だけでなく、2級技能検定、1級技能検定まで含めて、数百人の受験生のクライエント役を誇張無く1,000回どころではないほど務めてきましたが、「私のウンザリ感に気づいて、おうむ返しを止めた受験生はただの一人もいない」。これが事実です。

どれだけクライエントの表情を観察しても、全集中して話を聴いても、全身全霊で話を聴こうとしても、「私の心の中を捉えて、おうむ返しを止めるという判断に辿り着いた人はいない」のです。

つまり、

・クライエントに全集中し、表情を見れば、相手の心が分かる
・おうむ返しでラポール構築ができる。

このどちらも、「万人に対して有効なアプローチ、技法ではない」ということ。

にもかかわらず、「おうむ返し」を止めない、「クライエントに全集中」などという現実的には役に立たないアプローチにこだわるのであれば、それこそが「目の前のクライエントよりも、『自らが習った理論・技法』を大事にしている」状態です。

そう、誰にでも適用できるような技法なんてない。

その他にも、例えば今も「結婚や出産、昇進に『おめでとう』は(絶対に)言ってはダメ」というような指導があると聞きます。

それこそ「相手の顔を見て、声を聴いて、目の前の相手が『そのライフイベントをどうとらえているのか』」を自律して考えることができれば、「おめでとうございます」と祝意を伝えることもできるし、「…とのことですが、何かお顔が少し曇っている感じですが…何かご心配事が有ったりするのでしょうか…?」と相手の気持ちに寄り添うこともできるはずです。

態度も技法も、講師の指導を鵜呑みにするのではなく、「自分の頭で考え、クライエントだけでなく、自らにも意識を配る」ことが大切だと、このキャリコン村の片隅から、訴えていきたいと思います。