このエントリーでは、第15回国家資格キャリアコンサルタント面接ロールプレイ試験(キャリアコンサルティング協議会実施)にて出題された事例を、「社会保険労務士」としてキャリア「コンサルティング」してみるとどうなるかを解説しています。
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第15回キャリコン面接RP試験出題事例を、社労士的にキャリアコンサルティングする
キャリアコンサルタントの中には、社会保険労務士(社労士)を既にお持ちの方もおられますし、また合格された方や合格後に社労士を目指したいという方も少なくないのではないでしょうか。
社労士がキャリアコンサルティングを行った場合、基本的には「情報提供」を行うことが少なくないと思いますので、第15回キャリコン面接ロールプレイ試験(以下面接試験)で出題された、田村優子さんの事例について、社労士がキャリアコンサルティングをするとどうなるか、一例をあげてみたいと思います。
第15回キャリコン面接試験出題事例:田村優子さん
今回使用する事例は、下記の田村優子さんです。
氏名:田村優子
性別:女性
年齢:43 歳
家族構成:両親と同居。独身
学歴:保育専門学校卒
職歴:保育士として 2 年間勤務した後、派遣社員として現在まで勤務(20 年間)
【来談理由】
2か月後に派遣社員として契約更新を控えているが、両親も高齢であり、今後の安定した生 活を考えると、正社員として就職したい。とはいえ自身の年齢のことも気になるし、これまで派遣社員での経験がほとんどであることから、どのようにすれば良いのか分からない。【その他クライエント役としての応答情報】
1. 学生時代に保育士を希望したのは、子どもが好きだから。
2. 保育士を退職したのは、サービス残業の多さや保護者対応への疲れなどから。
3. 派遣社員を選択した理由は、就職氷河期であり、正社員の就職が困難であったため。
4. 派遣社員としての仕事は、ごく簡単な事務(書類整理などのファイリングや、簡単な書類作成)
5. 仕事のやりがいについて綺麗に整理整頓し、喜ばれると嬉しい
6. 現在の派遣先で正社員になることはイヤである。理由としては、責任が重くなることや、残業が増えるため。
7. 転職活動としては、まだ何も手を付けていない。
8. 正社員になりたいという希望について、両親及び現在の派遣元には相談していない。
※上記はキャリ魂塾塾生による事例情報を総合して整理したものであり、出題された事例と完全に一致するものではありません。
社労士による「情報提供」型キャリアコンサルティング例

田村さんは、今の派遣会社ではどのくらい働かれているんですか?

もう、20年近いですね、7~8年前に母の介護で2年近く休職していましたが、その期間以外はずっと今の派遣会社で派遣されています。

そうなんですね。これまでに派遣先は何社か変わられたとのことでしたが、一番やりがいがあったり、居心地が良かったと思われるのはどんな派遣先ですか?

そうですね、あえて言えば今の派遣先が仕事の内容も合っている感じです。

今の派遣先が仕事の内容も合っていると感じられているんですね。そうすると今の派遣先で正社員になれるとしたら、なりたいですか?

いえ、今の派遣先で正社員になると、やはり残業が結構あったり、責任も重そうなので…今の派遣先で正社員はちょっと。

ふむふむ。残業や責任が重くなりそうだと。ところで、どうして正社員になりたいんですか?

やっぱり、安定したいですね。派遣社員だといつ契約を切られるか分からないので。

「安定」したい?

はい。お給料は今の派遣のお給料で満足しているのですが、やはり不安定ですよね…

田村さんは、契約社員の無期雇用転換ってご存じですか?

いえ、私は契約社員じゃなくて、派遣社員なので…

お話をお伺いしていると、田村さんは『派遣元で有期雇用契約』されていますよね。

はい…

この場合も、「派遣元」で「契約社員として有期雇用」になるんですね。

はあ…そうなんですか

5年以上、有期雇用契約で働いている方は、有期雇用契約を無期雇用契約に変えることを申し入れられるんですね。

へえ…

なので、田村さんが『安定』を求めるなら、派遣元で無期雇用つまり正社員と同じように定年まで働けることになります。

そういう制度があるんですね。でも転換してくれるのかな…

これは、有期雇用労働者の権利として定められているので、通常は転換して貰えます。ただ、自分から言い出さないとダメな会社もあったりするんですね。

なるほど…

田村さんにとって、無期雇用転換のメリットがもう一つあります。

どんなことでしょうか

無期雇用転換を行うと、田村さんはいわゆる「登録型(有期雇用)派遣社員」ではなく、「無期雇用派遣社員」になるので、今までのような『3年の派遣期間制限』がなくなるので、ずっと今の派遣先で『派遣社員』として働くことも可能かもしれません。

それだと凄く嬉しいです

そうなったらいいですよね。では田村さんの今の派遣元の担当者の方に、無期雇用転換の申出と、そのまま今の派遣先で働きたい旨を、ご相談されてみるのはいかがでしょうか?
「情報提供」でクライエントをハッピーに
いかがだったでしょうか。
契約社員(有期雇用労働者)の無期雇用転換は、キャリアコンサルタント受験生なら、どなたでもご存じだと思います。
しかし、今回のポイントである
1.登録型派遣社員は「派遣元での有期雇用労働者」なので、5年の無期雇用転換を申し出ることで、派遣元で無期雇用契約に転換可能。
2.「無期雇用転換によって無期雇用の派遣社員となるため、3年の期間制限が外れる(期間無制限で派遣可能)」
このコンボが使えるというところまで理解している受験生は、やはり少ないのではないでしょうか(人材派遣会社で働かれている方ならご承知かと思いますが…)。
むしろ、「残業はイヤだ?正社員は責任が重いからイヤだ?何を甘えているんだ。」そんな風に思った方も少なくないのでは…
キャリアコンサルタントは、実は「他人に厳しい」方が少なくないからです。
それは、大企業人事経験者や、氷河期世代など、「厳しい社会人経験を積んできた方」が多いことにも一因があるのかもしれません。
「暗いエント」が「明るいエント」に変わる、キャリアコンサルティングを考える
話をよく聴くことで分かるように、彼女は「安定」を求めていたのであって、「正社員」を求めていたのではありません。
クライエントが安定した雇用をgetしてから、今後のキャリア形成を改めて考えればいいのであって、最初から「残業がイヤ、責任が重いのがイヤとか、ワガママ言っていたら、正社員なんてムリ」なんて、北風を吹かしたところでコートを脱いでもらう(=ラポール構築)ことはできません。
何より、あなたが田村さんなら、どんな風になればハッピーですか?
私は、「正社員にこだわらず、収入とワークライフバランスを保ったまま、定年まで勤められる職場を確保する」ことが、田村さんのハッピーの第一歩だと考え、そのハッピーに繋がる情報提供をしました。
「正社員になりたい」から「正社員の厳しさを教える」なんてまっぴらごめんですし、「正社員になれるような職場を探す」だけが、支援でも寄り添いでもない。
知識を縦横につなぎ合わせ、「暗いエント」が「明るいエント」になれる情報を提供する。
それが「マルチライセンス」の強みです。
キャリコン学科試験を、とりあえず丸暗記で乗り切ろう、そんな風に考えている方も多いようです。
それがダメだという話ではありません。
とは言え、法律知識と傾聴を使いこなせるようになると、「コンサルティング」の世界が待っていることもまた事実。
ご参考になりましたら幸いです。
(出典:厚生労働省資料)