このエントリーでは、キャリアコンサルタント養成講習で学ぶ応答を「ロジャーズ派(ロジャリアン)」(≒問題(原因)志向)アプローチ(感情的アプローチ)と捉え、ロジャーズ派とは異なる、「エリクソン派(エリクソニアン)」(≒解決志向)アプローチをご紹介しています。

ロジャリアンとエリクソニアンの違い

ロジャリアンとエリクソニアンの違いをまとめると、おおむね下記の表のようになるかと思います。

現在、キャリアコンサルタント養成講習の「面接ロールプレイ演習」時間として学ぶのは、ほぼ100%この「ロジャーズ派」のアプローチであり、それ以外は学びません(というより、学科も含めて150時間では、ロジャーズ派の基礎しか学べません)。

しかし、多くの実務家による来談者中心療法の実践と研究の結果、現実的には傾聴「だけ」では解決に至らない問題も多々あることは、既に明らかになっています。

このことは、キャリアコンサルタントの基本書と位置付けられる「キャリアコンサルティング理論と実際」においても、認知行動アプローチなども含めた「包括折衷アプローチ」がキャリアコンサルタントの必須知識(スキル)とされていることからも、全キャリアコンサルタントが知っておくべき基礎知識です。

ロジャリアンとエリクソニアンの応答の違い。

ロジャリアンとエリクソニアンの最も大きな違いは、(キャリアコンサルティング業界の)ロジャリアンが「共感」「寄り添い」を最重要視しているのに対して、エリクソニアンは「例外(リソース)を見つける」ことを最重要視していることです。

※ラポール構築はロジャリアンもエリクソニアンも重視しています。

では、例を挙げてみましょう。

ロジャリアンの応答例

田村さん田村さん

何もかもできないんです…私はダメ人間なんです…


こういったクライエントの発言に対して、多くのロジャリアンはこのような応答をします。

土本さん土本さん

何もかもできない…私はダメな人間だって思われるんですね…


時には「省略された感情」にフォーカスし、こういった応答だけでなく、「お辛いですよね…」なども付け加えるかもしれません。

このように応答されれば、おうむ返しの原則のとおり、クライエントは「自分ができない」点や「ダメ人間」であることにフォーカスしていくため、多くの場合面談時間が「暗く重い」ものになりがちです。

エリクソニアンの応答例

田村さん田村さん

何もかもできないんです…私はダメ人間なんです…


こういったクライエントの発言に対して、エリクソニアンは「例外」を探します。

「例外」はリソースであり、リフレームに繋がるからです。

例1

キャリ魂太郎キャリ魂太郎

何もかもできない…ダメな人間だと思われているわけですね…私は「何もかもできないダメ人間」なら「何とかしようと誰かに相談すること」もできない、考えないと思いますが、今日はどうして相談に来ようと思われたのですか?

これは当然のことですが、それまでのやり取りや事前のヒアリングシートなどにより「クライエントが『できない自分を何とか変えたい』といった応答する」こと、そして「変えられる方法があるなら変えようとする」つまり「自らを『本当はやればできる人』であると考えている」ことを「信頼」した問いかけです。

例2

キャリ魂太郎キャリ魂太郎

なんにも?全然?ひとつも?そうすると毎日遅刻しているし、納期通りに仕事を完成させたこともなければ、早退ばっかりしているし、これまでの顧客からは「マジで無理、あの人変えて!」と悲鳴が上がっている?


ときにはこんな応答をするかもしれません。

エリクソニアンは、「マイナス面」つまり「暗い面」へのフォーカスよりも、「プラス面」つまり「明るい面」をフォーカスします。

例2は、「何もかもできない」「私はダメな人間だ」という「マイナス面」をフォーカスするのではなく、「できている何か」をリソースととらえ、その「できている何か」を見つけようとするアプローチですね。

もちろん、こういったキャリアコンサルタントの応答は、「強固なラポール」が前提となります。

そうでなければ、揚げ足取りのように思われてしまい、クライエントを怒らせてしまうこともあるかもしれません。

なので、エリクソニアンは「ラポール構築」を早急かつ強固にするために、ペーシングやキャリブレーションといった「観察」に基づくスキルを重視します。

多くのニーズと多様な流派があることを知る

キャリアコンサルティングは、感情的アプローチのほかにも、行動的アプローチや認知的アプローチ(認知行動的アプローチ)など、多様なアプローチ(流派)があります。

そして、どの流派でも、そのベースには、傾聴とラポール構築があります。

とは言え、流派ごとに得手不得手があることもまた事実です。

例えば「かわいそうな自分に共感してほしい」「自分のできなさ、ダメさを特別なものと認識してほしい」というニーズがあることは否定しませんし、そのようなニーズに対して、エリクソニアンの解決志向アプローチが効果を発揮するとは限りません。

それは、解決志向アプローチは、もともと精神科医であるミルトン・エリクソンが創始者であるため、「治療的支援」がベースとなっており、「解決しなくていい。話を聴いてほしい『だけ』」というニーズをそもそも想定していないからです。

問題が複雑化し、クライエントも多様化している現代では、クライエントの状態やニーズに応じて、多様なアプローチを提供できる「包括折衷アプローチ」が、キャリアコンサルタントには求められています。

ご参考になりましたら幸いです。