このエントリーでは、国家資格キャリアコンサルタント論述試験(キャリアコンサルティング協議会を指定試験機関とするもの、以下同じ)で出題される設問1~4のうち、設問2について解説しています。

キャリコン論述試験は設問2が最も難しい。その理由を解説

新形式(第15回以降の国家資格キャリアコンサルタント論述試験)では、「キャリアコンサルタントの応答の意図」が問われるようになりました。

キャリ魂塾では、この設問2が、最も難しい設問であると考えています。

その理由を、例題を用いて解説していきますね。

例題:キャリアコンサルタントの応答の意図を100~120文字で答えなさい。

田村さん田村さん

今まで、非正規雇用でしか働いたことが無いので、正社員登用と言われても自信が無くて・・・


土本さん土本さん

ふむふむ。今まで非正規雇用でしか働いたことが無く、正社員登用と言われても自信が無いとお考えなんですね

これは、キャリアコンサルタント養成講習でよく学ぶ「おうむ返し」(伝え返し)を使った応答です。

この応答の意図を、100~120文字で書きあげることができるでしょうか。正直言って、難しいと思います。

「おうむ返し(伝え返し)」を用いて、「話をしっかりと聞いていることによるラポールの構築」を意図した。

この解答例で良いなら、約50文字。1行で十分なんです。

個人的な推測ですが、設問2で期待されているのは、このような解答「だけ」ではないと思うんですね。

解答欄は2行あるのですから、最低限、100文字前後を使って「応答の意図」を説明してほしいと考えているのではないでしょうか。

一部の「傾聴やロジャーズ派」の指導では、「支援者が何かを意図した応答」に否定的

キャリアコンサルタントが一応の公的資格講座として実施されるようになった、約15年前から現在に至るまで、このような「キャリアコンサルタントの応答の意図」は重視されてきませんでした。

それは、キャリアコンサルタント養成講習における傾聴とは、「おうむ返し」がメインであり、逆説的に言えば「聴いているかどうかは関係が無い」傾聴だったからです。

傾聴の究極は、「鏡になること」とも言われます。「鏡になること」つまり、キャリコン養成講習では「キャリアコンサルタントの解釈」は不要であり、「何かを意図した応答」は「クライエントを操作するもの」であり、純粋な傾聴ではないと指導されることがあったんです。

そして、このような考え方をする団体では、ときに「質問するな」と指導されることさえあったそうです。

「クライエントに全身全霊を傾ける」や、「100%全集中」を「しない」

その他、クライエントに全身全霊を傾けて聴く、やクライエントに100%全集中しよう、などの具体性のない指導(というよりスローガン)があります。

キャリ魂塾では、このような指導は一切行いません。

なぜなら、キャリアコンサルティングとは、クライエントとの相互作用の場であり、相互作用の場である以上、「クライエントだけでなく、キャリアコンサルタント自身の観察」が必要不可欠なんです。

つまり、設問2が難問となる理由は、「自らの応答に意識を向けることに慣れていないキャリアコンサルタント(受験生)がほとんど」だから

自らの応答を、「何を意図しているかをしっかりと考えて行う習慣」がついていないと、「単なるおうむ返しなのに、これ以上何を書けばいいの?」と頭を抱えてしまうことになるんですね。

キャリアコンサルタントとして「自ら」に意識を向け、意図した応答を意識する

自らに意識を向けることに慣れれば、「自らが何を意図して応答しているか」を考えることができます。

では、先ほどの応答を、「自らの応答」として私が考えればどうなるか。

相づち

土本さん土本さん

ふむふむ。

これは「相づち」です。相づちを行うことにより、「話をきちんと聴いています」ということを「態度」で示すことを意図しています。

おうむ返し(伝え返し)

土本さん土本さん

今まで非正規雇用でしか働いたことが無く、正社員登用と言われても自信が無い

これは、おうむ返し(伝え返し)です。相づちと同様に、「話をきちんと聴いています」ということを言語的に示しています。

分割

土本さん土本さん

とお考えなんですね

ここは、「おうむ返し」ではありませんよね。

単なる「おうむ返し」なら、「とお考えなんですね」を追加する必要はありません。

私なら、「自信がないと『頭ではそう思っている』が『気持ち』はどうなんでしょうか」という分割、つまり「頭」と「心(気持ち・感情)」を分けて考えられないかを意図している。

と捉えます。

ネガティブ化を防ぐ

まだあります。

クライエントは、語尾を「・・・」と省略しています。

クライエントが「省略した」表現を使ったのに、キャリアコンサルタントがそれを「スルー(無視)した」ということは…

「クライエントが省略したネガティブ感情を、敢えて『明確化しない』ことにより、場がネガティブなものになることを避けた」

と考えることもできます。

解決志向キャリアコンサルティング勉強会にご参加頂いている方は、この「省略のスルー」が「意図したものである」ことがご理解頂けるのではないでしょうか。

解答例

つまり、上述のクライエントの応答を受けた、キャリアコンサルタントの応答の意図を説明すれば、こうなります。

①A「ふむふむ」と相槌を入れることB「おうむ返し(伝え返し)」ABを重ねて行うことで、「話をきちんと聴いています」ということを態度と言語で明示しラポール構築。
②「お考えなんですね」と応答することで、「思考」と「感情」を分割して捉えられないかを暗示
③相談者の「…」という消極的感情の省略を、敢えて無視することで、場をネガティブにすることを避ける
以上を意図したもの。

これで178文字ですから、文字数オーバーですね笑試験的には、②③のどちらかはカットせざるを得ません。

あくまで、私ならこのように意図して行うということであり、他の方(もちろん試験委員含め)がどう考えるかはその人次第です。

普段はロジャリアン(ロジャーズ派)の考えに触れることが多いと思いますが、たまには私のような、エリクソニアンの考えに触れるのも、面白いのではないでしょうか。