このエントリーでは、キャリアコンサルタントが制度上、「業務独占資格」にならない理由について解説しています。

キャリアコンサルタントは「業務独占資格」にならない。

キャリアコンサルタントは「食えない資格」と言われることが多い資格です。

むしろ「食えない資格」の代表格、そう思われる方もいるのではないでしょうか。

その「食えなさ」ゆえに、

「キャリアコンサルタントを『業務独占資格』に」

「キャリアコンサルティングを『独占業務』に」

といった声、意見を見かけることもあります。

あなたもそう思いますか?

そう思うのであれば、まだ「キャリアコンサルタント」という資格・職業の職業理解が進んでいないのだと思います。

結論から言えば、キャリアコンサルタントは業務独占資格にはなり得ません。

「傾聴」は「知識」「経験」に基づいて行うものではない

あくまで「現状の」という但し書きを付けた上で、ですが、「傾聴者」を養成しているのが、現状のキャリアコンサルタント養成講習と言っても良いと思います。

この「傾聴」が、現行キャリアコンサルタント制度の根幹となっている以上、キャリアコンサルタントは業務独占資格にはならないし、キャリアコンサルティングが独占業務になることもありません。

なぜなら、傾聴は「知識・経験」に基づいて行うものではないからです。

だから、大学生でも養成講習を受講し、修了すればキャリアコンサルタント試験の受験資格が得られるのです。

コンサルティング・カウンセリングは、本来独占業務になり得ない

「傾聴」とは、「知識・経験」に基づかない支援の「姿勢」であり「理念」です。

これは「来談者中心療法」などの「人間性心理学」を中心としたカウンセリングも同じです。

そういう立場に立てば、「カウンセラーに大学院などの高等専門教育は不要」とも言えます。

つまり、適性(学習姿勢やコミュニケーション能力、相談者への思いやり等)が必要とされるのみであり、基本的には「誰でもできる」のです。

「オウム返し」という技法が、その最も良い例です。

「オウム返し」は、「支援者の経験」を排除し、ひたすら内省を支援することに徹する技法です。

クライエントにとっての「鏡」になるのに、知識や経験は邪魔であると考えているわけですね。

業務独占資格の本質は「丸投げ」である。

逆に、業務独占資格とは「高度な専門性(知識・経験)」に基づいています。

言い換えると、「一般的な人」にはできないことであり、時間や費用といった「効率」を考えると、「丸投げ」した方が効率が良いと考えられるか、無資格者が行うことで多大な損害を生じる可能性がある、こういった場合の「規制」として機能していると言えます。

独占業務とは『支援者の』「高度な専門性」に基づく支援であり、本質的に「丸投げ(請負)」です。

だから「依存」する。

税理士に経理を依存する、弁護士に訴訟対応を一任する。

それは「自分にその答えが無い」ことがほとんどですよね(一部には、分かるけれど他人にしてもらう方がラク、というのもありますが)。

「丸投げ(請負)」になるから、「高度な専門性」が求められるわけです。

カウンセリング・コンサルティングの本質は「自立・自律」

業務独占資格の本質が、「丸投げ」という依存型であるのに対し、カウンセリング・コンサルティングの本質は「自立・自律」です。

心理職としては唯一の国家資格である公認心理師も、カウンセリングを独占業務とはしていません(一部心理検査などは実質的に独占業務になっていくと思います)。

また、経営コンサルタントとしては唯一の国家資格である中小企業診断士も、経営コンサルティングを独占業務とはしていません。

社会保険労務士の三号業務とされる「労務管理等相談(コンサルティング)」も、独占業務ではありません。

これらは「クライエント(クライアント)」の「自立・自律」が基本であり、主体となるのは資格者ではないからです。

元々、「相談業務」は、弁護士法第72条によって制限される法律相談以外は、全て「自由」なのです。

また、カウンセリング・コンサルティングは、その問題が複雑多岐に渡ることや、時代とともに問題の内容も変わるため、国家が統制独占するにはそぐわない面もあります。

キャリアコンサルタント制度は「社内キャリアコンサルタント」をベースに考えられている

また、キャリアコンサルタント制度は、職業能力開発促進法上「労働者(求職者を含む)の職業能力開発」を基本的な業務と捉えており、企業内キャリアコンサルタント制度が織り込まれています。

仮に、キャリアコンサルタントを独占業務資格にしてしまえば、「キャリアコンサルタントのいない会社では、職業能力開発相談ができない」という、なんとも本末転倒なことになりかねません。

蛇足ですが、「労働者の職業能力開発」の相談者としての資格だからこそ、多重関係が考慮されていないことになっているわけです。

「社内キャリアコンサルタント」をメインとして、制度設計されている以上、この点からも業務独占資格化は非常に困難と言えるでしょう。

まとめ:キャリアコンサルタント資格が「業務独占資格」にならない3つの理由

まとめると、下記の3つの理由により、キャリアコンサルタントは業務独占資格にはなり得ないと考えられます。

理由1:「自立・自律」を支援することが目的であり、「丸投げ」が目的の資格ではない。
理由2:時代とともに求められることが変わるため、硬直化しがちな業務独占資格に馴染まない。
理由3:キャリアコンサルタント資格が業務独占になると、キャリアコンサルタントのいない会社では、職業能力開発相談ができなくなる。

※本エントリーは、キャリ魂塾メルマガとして配信した内容を再構成したものです。