前回のエントリーで、最新のChatGPT-4による、2級キャリアコンサルティング技能検定面接ロールプレイ試験出題事例(クライエント)へのキャリアコンサルティングをご紹介しました。

AIが凄いことは何となく知っていても、この結果に改めて驚いた。そんな方も多いのではないでしょうか。

ヒトとAIのキャリアコンサルティングの違いは「個別具体性」へのアプローチ

では、ヒトとAIの違いはどこにあるのでしょうか。

私は、それは「個別具体性」へのアプローチ、つまり「寄り添い」だと思います。

しかし、ここでの「寄り添い」は、ただ単に「大変ですね」「お辛いですよね」「お気持ちよく分かります」と言ったような「よくある」ものではありません。

大山さんを「より深く理解すること」で得られる「大山さんのユニーク(個性)さ」に合わせること、それがここでの「寄り添い」です。

僭越ながら私がヒト代表として、この大山さんの事例を読んで、AIとは違うアプローチをご紹介してみたいと思います。

大山さんが「気づいていない」人材育成経験にフォーカスする

「 すべての人はそれぞれに独特な個人です。それゆえに心理療法は、その個人が必要とするユニークさに合わせて行われるべきです。人を行動の仮説理論に合うように無理やり仕立てあげるべきではありません。」-ミルトン・エリクソン

このミルトン・エリクソンの言葉を頼りに、まず、事例をシッカリと読みます。

そうすると、大山さんに「2人のお子さん」がいらっしゃることが分かります。

ミルトン・エリクソンはこうも言いました。

「すべては家族の中にある」

うろ覚えですが、多分そんな感じのことを言っていました笑

気になる方は森俊夫先生が訳された「ミルトン・エリクソン 子どもと家族を語る」を読むといいかもしれません。

そう、2級事例には大抵「家族構成」が掲載されているんですね。

キャリコン面接試験では、職場など、ビジネスの現場での悩みが取り上げられることが多いのですが、当然「家族の視点」もクライエントに大きな影響があるはずです。

子育ての経験は「人材育成」に使える「スキル」である

もっとも、この2人のお子さんが、配偶者の連れ子で、結婚したのは去年、みたいな話かもしれませんので、きちんと確認する必要がありますが、試験的には実子と考えて問題ないでしょう。

そうしたら、例えば私のアプローチはこうです。

大山さんは、1人目のお子さんが生まれたとき、はじめて「父親」になりました。

奥様(配偶者と書くべきでしょうが、そこはちょっとご容赦下さい)とともに、「親」としての第一歩を踏み出すことになったんです。

つまり「子育て」という「人材育成」の経験を、ここから20年に渡って、日々積んできたはずなんですね。

何もかもが初めて経験する「子育て」…けれど、大山さんは逃げませんでした。

奥様とともに、仕事をしながら「未経験」の「子育て」をすることを選んだ。そう「未経験」でも「やればできる」ことを知っているはずです。

そんな大山さんにとって、大変だったことはなんでしょう…夜泣き…癇癪…離乳食を食べないこと…?…また、産後の奥様との関係性も大山さんにとって初めての経験だったと思います。

更に、2年後…もう一人のお子様が生まれました。しかし、大山さんは今度は少し落ち着いて、目の前の小さな命に向き合うこともできたのではないでしょうか…

もしかすると、お姉ちゃんは弟ができたことで、「パパやママが取られちゃう」と嫉妬して「赤ちゃん返り」のように、大山さんや奥様に、わがままで愛情や期待を確かめてきたかもしれません。そんなときはどうやって接したのでしょう。

お子様が小学校に入学すると、また違った悩みが大山さんと奥様に立ちはだかります。

例えば、お子様がお友達との関係に悩んだこともあったでしょうし、勉強についての悩みもあったでしょう…大山さんはお休みの日、そんな子どもたちとどのように接したでしょうか。

思春期が訪れ、お子さんを育てることの難しさを大山さんは感じたはずです。言ったことをしない、時にはわざと?と思うような正反対のことをする…生意気で反抗してきたり…

お子さまの受験のとき…大山さんはどうやって子どもたちに接したでしょうか…もしかすると「じっと見守る」ということも教育に必要だと学んだのは、その時かもしれません…

年の近い子どものいる同僚に、子育ての悩みを話して、そのアドバイスをヒントに上手くいったこともあるのかもしれません。

お子さまが病気のときは、「自分が病気を治そう」なんて考えずに、病院に頼ることもしたはずです。それは何も恥ずかしいことではなく「自分に出来ることと出来ないこと、そしてやるべきこと」が分かっている人にしかできないことです。

どんなときでも、大山さんは奥様と一緒に、2人の子どもを見てきたはずです。自分では「そんな特別なことはしていない」と思われているかもしれません。しかし、大山さんと奥様は「未経験」だった「子育て」を、ふたりのお子様が成人するまでやり遂げたのです。その喜びは、大山さんにとってどれほど大きかったでしょうか。

この経験を、「今」に重ね合わせれば、例えば「協力してくれる部下」がいるのかどうかを確認し、いるならその協力をどのように得られるかを考える。

従業員ができていること、できていないことは何なのか、それはどのように観察・評価すれば分かるのか…子どもたちの声を大山さんはどのように聴こうとしたのでしょうか。

同じように店長になっている同期などもいるかもしれません。同期でなくても相談しやすい先輩や後輩の店長はどうやっているでしょう‥

また、分からないことはきちんと確認する。そう、「自分に出来ることと出来ないこと、そしてやるべきこと」の判断基準は、大山さんの中にリソースとして存在しているはずです。

リソースは無限にある

大山さんが「子育ては妻にまかせっきりで、一切何にもしていなくて、家ではいないものとされています」なんて言ったとしたら、それはそれで「そんな家庭でも耐えられる」ことは強みですね笑

また、その場合は「後輩」との接し方の延長線で人材育成を考えてもいいし、その逆に「先輩」からの接し方で人材育成を考えることもできます。

部活動はどうだったでしょう。趣味などは?自分一人で学んだなら、その「独学力」を活用すればいいだけです。

そう、「リソースは無限にある」のです。

ヒトとAIの違いは「信じ方」の違い

いかがでしょうか。ヒトであれば、このように「家族構成」から掘り下げてアプローチすることもできます。

AIは、一般論を与えればヒト(クライエント)は動くと信じているのかもしれません。

しかし、私たちは、「クライエントが動くために必要なことは『効力予期(自己効力感)と結果期待』の2つである」ことを知っています。

そして、「クライエントの自己効力感を高める、それには『遂行体験』『代理経験』『言語説得』『情動喚起』の4つが有効である」ことを知っています。

もうあなたには、私が先ほどのアプローチの中で、「遂行体験」「言語説得」「代理経験」「情動喚起」を組み込んでいることが、お分かりですよね。

私たちは大山さんの「個性」を知ることで、AIにはまだできないアプローチができます。

それは、「ヒトは自分で(自律して)課題解決することができる」そして「そのためのリソースが備わっている」と信じているからです。

それがAIではない、ヒトにしかできない「寄り添い」としてのキャリアコンサルティング(カウンセリング)だと私は思います。