このエントリーでは、「診断」と「判断」の違い、「メンタルヘルス」を扱う場合の参考書籍、そしてキャリアコンサルタント有資格者が「心理職」を目指すケースについてお伝えしています。
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「診断」と「判断」の違い
対人援助職(心理職、福祉職等)において、心理的な援助の対象となる方は、全て「心理的な疾患」のない方ということになります。
カウンセリングとは、本来「心理的に健康な人」に対して行われるものですが、一部のカウンセリングの解釈や技法のなかには、心理的な疾患を有する場合にも有効であることがありますので、少し話がややこしいということになります。
「診断」とは
キャリアコンサルタント業界で、「診断」という言葉を使うときは、基本的には、下記を指します。
医師が患者の病状を検査,診察して行う医学的判断で,一般に改善,治療のための示唆,勧告,指示を含む。診断と治療は現代の臨床医学を支える2つの支柱で,それぞれが独立した学問の体系となっており,診断はそれ自身を一つの技術とみなしており,病名の決定だけではない。
出典:ブリタニカ国際大百科事典
つまり、あなたもよくご存知のように、キャリアコンサルタントは医師ではない(中にはダブルライセンスの方もいるかもしれませんが)ため、「診断」という行為を行うことはありませんし、行ってはいけない、ということになります。
「判断」とは
「診断」は行いませんが「判断」は必要となります。
判断とは、下記のとおりです。
1 物事の真偽・善悪などを見極め、それについて自分の考えを定めること。
出典:デジタル大辞泉
「判断」は医師だけが行うものではなく、我々ひとりひとりが、物事を見極めるために行うものである、ということになります。
キャリアコンサルタントは現状では「心理職」ではない。
さて、キャリアコンサルタントは「心理職」でしょうか。
残念ながら、今のところ「心理職」ではありません。
自らの働きかけが、相談者にとってどのような「心理的な影響」を及ぼすかを考えながら(あるいは把握したうえで)、面談の中で働きかけを行うというのが、キャリアコンサルタントが行う「キャリアコンサルティング」の在り方ではありますが、それでも「心理(専門)職」ではないのです。
なぜキャリアコンサルタントは「心理職」と呼べないのか。
なぜ、キャリアコンサルタントは「心理(専門)職」と呼べないのか。
簡単です。
相談者の心の状態がどういう状態なのか、「判断する基準」をほとんどといっていいほど、学んでいないからです。
この「判断の基準」を学んでいないのに、「判断」することはできません。
つまり、今のところ「一般的なイメージ+α」でしか、相談者を「視ること」ができていないのです。
「判断」のために学ぶべきこと
目の前の相談者がどういった心の状態なのかを判断するためには、その判断の基準を(ある程度)学ばなければいけないことは言うまでもありません。
正確なリファー、相談者を傷つけないリファーのためにも、判断の基準が必要になります。
私が最初に購入したのは、↓の2006年版です。
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ただ、DSMが改定され、DSM-5になったわけですし、キャリ魂塾の受講生の中にも公認心理師を受験したいと考える方もいらっしゃると思いますので、今から買うなら、下記の2冊がよいと思います。
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キャリアコンサルタントとしては、別に購入する必要はありませんが、心理カウンセラーを目指される方は、購入されるのも良いかと思います。
「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」と「DSM-5診断面接ポケットマニュアル」の違いと使い方
「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」(以下「手引き」とします)には、その症状の説明が掲載されています。
もの凄く簡単に言えば、例えば、ある患者について、医師が「自閉症スペクトラム障害」と診断する場合の基準が掲載されているわけですね。
そして、「DSM-5診断面接ポケットマニュアル」(以下「マニュアル」とします)には、医師が患者を「自閉症スペクトラム障害」と「診断するための質問」が掲載されています。
医師が「自閉症スペクトラム障害」と「診断」する際に使用する質問(問診)が掲載されていると言えばよいのかもしれません。
心理職の場合の使い方としては、手引きを読んで、それぞれの障害、病名についての詳細を学んだうえで、相談者が健康な方とは違う一面を見せた際に、その一面がどういうものかを知るための「問いかけ」を「マニュアル」に基づいて行い、リファーの際の手掛かり(結論付けることはない。あくまで手掛かり)にする。
といった感じになります。
そして、これらをほぼ全く学んでいないがために、キャリアコンサルタントは「心理職」ではないのです(今の産業カウンセラーがDSMを学んでいるのかはわかりませんが…)。
ちなみに、精神保健福祉士や社会福祉士はDSMの内容が試験に出題されますが、あなたは精神保健福祉士・社会福祉士を「心理職」と考えているでしょうか。
そして、DSMが試験に出題されるにもかかわらず、セルフキャリアドック実施者になれるのは、(別途講習を受けた)精神保健福祉士だけであり、社会福祉士はなれません。
キャリアコンサルタントは心理職を目指すのか。
私が個人的に思うだけですが、このキャリアコンサルタント業界は「心理職」の一翼でありたい方と、全くそう考えていない方で構成されていると感じます。
前者は、「カウンセラー」であろうとするキャリアコンサルタントです。
そして、後者は「社労士」を中心とした、「コンサルタント」や「コーチ」であろうとするキャリアコンサルタントと言えると思います。
私は、公認心理師資格を取りますので(取る予定、とは言わないところが味噌ですね笑)、前者であり、後者でもあります。
しかし、公認心理師は受験資格がかなり厳しいため、カウンセラーとして活動してきた全ての方が受験できるわけではありません。
そうなると、「キャリアコンサルタント」の業界団体として、ACCNなり協議会なりが「心理分野」への参入について、厚労省に働きかけを行うこともあるかもしれません。
そうなれば厚労省としては、DSMの内容の一部を「養成講習の内容に含む」そして「試験問題に含む」ことをその条件とするでしょう。
つまり、キャリアコンサルタントが「心理職」としてみられる(≒ストレスチェック実施者になれる)ようになるためには、DSM(全部とは言いませんが)的な内容を学ばなければならない可能性が高いと思われます。
しかしこれは、心理分野への参入を求めない方にとっては、負担増でしかありません。(当然、費用も改定されるでしょう)
なので、キャリアコンサルタントは、非常に汎用性の高い資格ではありますが、現状、心理分野への参入を行うのであれば、公認心理師、臨床心理士、認定心理士または産業カウンセラー資格を取るしかないと言えます。
逆に言えば、公認心理師その他上記の資格も、キャリアコンサルティングの実務経験がない場合は、養成講習を受講しないといけないわけですので、別に不公平というわけではないんですけれどね。
キャリアコンサルタントは心理職を目指さない。
キャリアコンサルタントは、その前身として「キャリア・カウンセラー」と称されることが多かったため、厚労省の意向との見解の相違が生まれているのだと思います。
将来的には、キャリアコンサルタント資格の専門資格として、「キャリアコンサルタント(心理)」的なものが生まれるかもしれませんが、そうなると、1級キャリコン技能士はもちろん、先日公表されたSV的な資格まで含めて「心理職じゃないこと」が改めて明確になってしまいます。
この2級、1級そしてSVという「心理職類似」であり、傾聴特化」の資格構造(ワークシート型のインストラクターも生まれましたが)が、今後キャリアコンサルタント業界発展の足枷になるかもしれません。
DSMにご興味のある方は、またDSMの勉強会もできたらいいですね。